不動産業界で10年以上のキャリアを持つ立石秀彦氏に、市街化調整区域での不動産取引の経験と実務上の留意点についてお話を伺いました。
市街化調整区域での取引経験について

――これまでにどのような市街化調整区域の物件を扱ってこられましたか?
沖縄県の糸満市で多くの市街化調整区域の物件を扱いました。仲介での土地売買のほか、自社で土地を買い取って再販する事業も行ってきました。
宅地もあれば農地もあり、取り扱った物件は多岐にわたります。宅地の中でも「既存宅地」や「大規模緩和区域」など、様々な種類の物件がありました。全体を通して感じたのは、注意すべき点が非常に多いということです。
市街化調整区域特有の難しさ
――市街化調整区域では、特にどのような点に注意が必要でしょうか?
最も重要なのは「そもそも住宅が建つのか、建たないのか」を調べることです。これには一つの法律だけでなく、様々な法律が絡んできます。調査そのものにかなりの経験や知識が必要なんです。
――建ぺい率や容積率も厳しいのでしょうか?
いえ、建ぺい率や容積率は市街化区域と比べてそれほど大きく変わりません。市街化調整区域の難しいところは、そもそも「建築できない事が前提のエリア」であることです。
その中で「建築可能な条件を探す」というのが、市街化区域との一番の違いです。市街化区域では建築できるという前提で調査を行いますが、市街化調整区域では全く逆のアプローチが必要になります。
編集部注: 市街化調整区域は都市計画法により「市街化を抑制すべき区域」と定められており、原則として建築物の新築が制限されています。一方、市街化区域は「すでに市街地を形成している区域及び概ね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域」とされています。
建築可能となる条件とは

――どのような条件であれば建築が可能になるのでしょうか?
都市計画法上は、主に2つの要件を見ていきます。
1つ目は「既存宅地」に該当するかどうかです(沖縄県の場合)。全国的には既存宅地制度は2001年(平成13年)に廃止されましたが、都道府県単位でそれに準ずる制度を維持しているケースがあります。沖縄県では、既存宅地の要件を満たせば許可を得て建築することが可能です。
2つ目は「大規模既存宅地」、別名「緩和区域」と呼ばれるものです。ある程度広いエリアに対して「ここは建ててもいいですよ」という緩和条件をつけているケースがあります。
編集部注: 既存宅地制度は平成13年(2001年)5月18日に都市計画法の改正により廃止されました。ただし、沖縄県のように独自の許可基準として既存宅地の要件を維持している自治体もあります。制度の運用は都道府県や市町村によって大きく異なるため、必ず所轄行政庁で確認が必要です。
既存宅地の確認方法
――これらの条件に該当するかどうかは、どのように判断するのでしょうか?
まず、役所での調査からスタートします。
「既存宅地」かどうかは、実は「宅地課税をされていたかどうか」で判断します。ですから、都市計画課などではなく、税務課などが担当していることが多いのです。
税務課に行って「宅地課税されていましたか?」ということを確認し、証明書を発行してくれる市町村があれば、その証明書をもらってくる手続きになります。
一方で「大規模既存宅地」かどうかは、都市計画の担当部署で調べることになります。たとえ市街化調整区域であっても、大規模既存宅地として一定条件を満たせば建築可能としている区域があります。
大規模既存宅地(緩和区域)の条件
――大規模既存宅地での建築条件について教えてください。
例えば「50戸連たん」と言って、家が50戸以上ある既存集落が対象になります。これを大規模既存宅地として、別名「緩和区域」とも呼ばれますが、「自己用住宅の緩和区域」内であれば、特例的に建築を認めようという制度です。
ただし、「自己用住宅」と付いているように制約があります。
編集部注: 50戸連たん制度は、都市計画法第34条第11号に基づく制度です。市街化調整区域内で建築物が50戸以上連続して存在している区域について、自治体が条例で指定することで建築を認めるものです。ただし、具体的な運用基準(戸数の数え方、敷地面積の要件、前面道路の幅員要件など)は自治体によって大きく異なります。
――自治体によって運用が異なるということですか?
その通りです。都道府県によってかなり大きく違いますし、市町村によっても異なります。また、最低敷地面積要件が定められているケースもあるため、あまり小さい土地だと建築できないこともあります。
農地の場合はさらに難易度が上がる

――宅地ではなく農地の場合はいかがでしょうか?
農地に関しては、さらに難易度が上がります。
農地転用は、沖縄県の今帰仁村や名護市など、沖縄本島北部で数多く手掛けてきましたが、そもそも要件が非常に厳しい上に、時間もかかる手続きになります。
農地にも種類があり、かなり転用が難しい農地もあれば、「一定の可能性はある」という農地もあります。ですから、まずはどのような規制がかかっているかを調べる必要があります。
編集部注: 農地転用は農地法に基づく手続きが必要です。市街化区域内の農地は農業委員会への届出で済みますが、市街化調整区域内の農地は都道府県知事(4ヘクタール超は農林水産大臣)の許可が必要です。また、農地は立地条件により「農用地区域内農地」「甲種農地」「第1種農地」「第2種農地」「第3種農地」の5つに区分され、区分によって転用の可否や難易度が大きく異なります。特に農業振興地域内の農用地区域に指定されている農地は原則として転用できず、除外手続きだけで半年から数年以上かかるケースもあります。
まとめ
市街化調整区域での不動産取引には、市街化区域とは全く異なる専門知識と調査能力が求められます。
主な留意点:
- 建築の可否判断に複数の法律が関係する
- 既存宅地や緩和区域など、自治体独自の制度を理解する必要がある
- 宅地課税の履歴や都市計画上の指定を複数の部署で調査する
- 農地の場合は農地法の規制も加わり、さらに複雑になる
- 自治体によって運用基準が大きく異なるため、必ず事前確認が必要
市街化調整区域での不動産取引を検討される場合は、経験豊富な専門家に相談されることをお勧めします。
取材協力: 立石秀彦(不動産業)
編集: 「市街化調整区域MANUAL」編集部


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