「市街化調整区域だから家は建てられない」と諦めかけていませんか。
実は、特定の条件を満たせば建築が可能になる制度があります。
その鍵となるのが、建築計画が法律のルールに適合していることを公的に証明する「60条証明」です。
この記事では、60条証明がどのような役割を持つのかという基本から、証明書が発行される3つの主なケース、そして取得するための具体的な手続きの流れまでを、専門用語を噛み砕いて解説します。
- 60条証明がどのような役割を持つ証明書なのか
- 証明書が発行される具体的なケース
- 証明書を取得するための4つのステップと流れ
- 申請に必要な書類と費用の目安
市街化調整区域の建築に必要な60条証明の概要

親から相続した土地に家を建てたいのに「建築は原則できません」と言われてしまうと、不安でいっぱいになりますよね。
しかし、市街化調整区域であっても、建築の道を開くための重要な書類があります。
それが、家を建てる次のステップに進むための「通行手形」ともいえる60条証明です。
この証明書がどのような役割を果たし、なぜあなたのマイホーム計画に不可欠なのか、3つの側面から解説します。
都市計画法に基づく証明書の役割
60条証明とは、正式名称を「都市計画法の規定に適合する建築物等であることの証明書」といいます。
これは、あなたの建築計画が「都市計画法」という法律のルールに適合していることを、自治体が公的に認めてくれる書類のことです。
市街化調整区域は、街がむやみに広がるのを防ぐために、新しい建物を制限するエリアと定められています。
60条証明は、その厳しいルールの「例外」として建築が認められることを示す、法的なお墨付きとなるのです。
開発許可が不要であることの証明
60条証明の最も重要な役割の一つが、建築行為に「開発許可」が不要であることを証明する点です。
開発許可とは、本来であれば大規模な土地の造成などに必要な、時間も費用もかかる手続きを指します。
例えば、農家の方が住むための家を建てたり、もともとあった家を建て替えたりする場合、これらは街の無秩序な拡大にはつながらないと判断されます。
60条証明は、計画がこのような「開発許可が免除されるケース」に該当することを明らかにするものです。
つまり、この証明書があれば、複雑な開発許可の手続きを経ずに建築計画を進められるようになります。
建築確認申請へ進むための通行手形
家を建てる手続きは、60条証明を取得して終わりではありません。
この証明書は、設計図が法律に合っているかを確認する「建築確認申請」という次の段階へ進むために不可欠な書類となります。
市街化調整区域では、60条証明がなければ建築確認申請を受け付けてもらえません。
申請の際には、必ずこの証明書を添付する必要があります。
まさに「通行手形」という言葉がぴったりで、60条証明を手に入れることで、初めて本格的な家づくりのスタートラインに立つことができるのです。
60条証明が発行される3つの主なケース

市街化調整区域では原則として建物を建てられませんが、例外的に建築が認められる場合があります。
自分の計画がその例外に当てはまるかどうかを判断することが、家を建てるための第一歩です。
証明書が発行される代表的なケースは、大きく分けて3つあります。
相続された土地がどのケースに該当する可能性があるか、確認していきましょう。
農業を営むための農家住宅や農業用施設
まず、農業を営む人のための建物です。
これは、市街化を抑制するという区域の目的を妨げないと判断されるため、許可が不要となる代表例です。
ここでいう農家住宅とは、農業を主として生計を立てている人が自ら住むための家を指します。
このケースに該当する場合、自治体の農業委員会が発行する「農業者証明書」などの書類を求められることが一般的です。
農家住宅のほかに、農作物を保管する倉庫や、家畜を飼育する畜舎なども対象となります。
ご自身が農業に従事している、あるいはこれから本格的に始める計画がある場合に当てはまる可能性があります。
| 対象となる主な建物 | 補足 |
|---|---|
| 農家住宅 | 農業を営む人が居住するための家 |
| 農業用倉庫 | 農産物や農業機械を保管する施設 |
| 畜舎・温室 | 家畜の飼育や作物の栽培に必要な施設 |
農業を理由として建築を計画する場合は、まず自分が農業者としての条件を満たしているかを確認し、必要な証明書類を準備することが重要になります。
区域指定前からある土地での建替えや増改築
次に、多くの方が該当する可能性のあるケースが、既存の権利に基づく建築です。
市街化調整区域として指定される前から宅地だった土地や、すでに適法に建てられた建物を建て替える権利のことを「既存権利」と呼びます。
親から相続した土地に元々家が建っていた場合、このケースに当てはまる可能性が高いです。
ただし、無条件に建て替えが認められるわけではありません。
例えば、以前の建物と同じ用途であることや、延べ床面積が従前の1.5倍以内であることなど、自治体ごとに定められた規模の範囲内で行う必要があります。
この権利を証明するためには、法務局で取得する登記事項証明書や、過去の建築確認通知書といった公的な書類が不可欠です。
| 確認すべき主な条件 | 必要な書類の例 |
|---|---|
| 区域指定前から宅地だったか | 登記事項証明書、航空写真 |
| 既存建物が適法に建築されたか | 過去の建築確認通知書、検査済証 |
| 用途が同一か | 以前の建築計画概要書 |
| 規模が一定の範囲内か | 以前の図面、新しい図面 |
相続した土地での建て替えを検討する場合、まず法務局で土地や建物の沿革がわかる書類を取得し、区域指定前から宅地であったことを証明できるか確認することから始めます。
駅や公民館など公益上必要な建築物
最後に、公共性の高い施設を建築する場合です。
公益上必要な建築物とは、鉄道施設や図書館、公民館など、地域住民の生活にとって必要不可欠な施設を指します。
これらの施設は、市街化調整区域の住民にとっても便益をもたらすため、特例として建築が認められます。
このケースは個人の住宅建築には直接関係ありませんが、市街化調整区域内でも社会的な必要性が認められれば建築が可能になるという一つの例です。
個人の計画とは異なりますが、制度を理解する上で知っておくとよいでしょう。
| 公益施設の分類 | 具体例 |
|---|---|
| 交通施設 | 駅舎、鉄道施設 |
| 教育・文化施設 | 図書館、公民館、博物館 |
| 社会福祉施設 | 保育所、老人ホーム |
このケースは、主に地方公共団体や公益法人が事業主体となる場合であり、個人の住宅建築に適用されることはありません。
60条証明を取得する4つの手続きと流れ

60条証明を取得するための手続きは、大きく4つのステップに分かれています。
この中で最も重要なのが、最初のステップである「自治体の担当窓口での事前相談」です。
ここで計画の方向性を確認することが、後の手続きを円滑に進めるための鍵となります。
自治体によって細かな違いはありますが、大まかな流れは共通しています。
一つひとつのステップを着実に進めていきましょう。
ステップ1-自治体の担当窓口での事前相談
まず最初に行うべきことは、あなたの土地がある市区町村の役所へ行き、専門の担当者に直接相談することです。
これが、手続き全体の成否を左右する最も重要な第一歩となります。
相談先の部署は、自治体によって「開発指導課」や「都市計画課」、「まちづくり指導課」など名称が異なります。
訪問前には、自治体のホームページで確認するか、電話で問い合わせておくとスムーズです。
相談の際には、土地の場所がわかる地図や、どのような建物を建てたいかの簡単な計画図を持参すると、話が具体的に進みやすくなります。
この段階で、ご自身の計画が60条証明の対象になりそうか、どのような書類が必要になるのかをしっかりと確認することが大切です。
事前相談を丁寧に行うことで、その後の書類準備や申請が格段に進めやすくなります。
ステップ2-申請に必要な書類の準備
事前相談で確認した内容に基づき、申請に必要な書類を準備します。
自治体ごとに必要な書類や様式が異なるため、必ず管轄の役所の指示に従って準備を進めるようにしてください。
一般的に求められる書類は専門的なものが多く、図面の作成も必要になるため、準備には時間がかかります。
京都市や大津市の例を見ても、申請には多数の書類が求められることがわかります。
下記に、一般的に必要とされる書類の例をまとめました。
| 書類の種類 | 主な内容と注意点 |
|---|---|
| 申請書 | 自治体のホームページからダウンロードできる様式を使用 |
| 各種図面 | 位置図、配置図、平面図、立面図、求積図など |
| 公図の写し | 法務局で取得。申請日から3ヶ月以内のものなど有効期限に注意 |
| 登記事項証明書 | 土地や建物の権利関係を示す書類。法務局で取得 |
| 現地の写真 | 敷地の現在の状況がわかるよう複数方向から撮影したもの |
| その他 | 委任状(代理人が申請する場合)、既存建物の建築確認通知書(建替えの場合)、農業者証明(農家住宅の場合)など |
書類に不備があると、審査が遅れたり、再提出を求められたりすることがあります。
リストを基に、一つひとつ着実に揃えていきましょう。
ステップ3-申請書の提出と手数料の支払い
全ての書類が準備できたら、自治体の担当窓口へ提出します。
提出時には、自治体が指定する部数を揃える必要がある点に注意が必要です。
例えば、兵庫県加古川市では正本・副本・正本の写しの合計3部を提出するよう定められています。
申請書の提出と同時に、手数料の支払いも行います。
手数料の金額は自治体によって異なります。
一例として、加古川市では60条証明のみの申請で1件あたり4,600円(2024年時点)が必要です。
手数料は現金で支払う場合が多いため、事前に準備しておくと良いでしょう。
このステップが完了すれば、あとは自治体の審査結果を待つことになります。
ステップ4-自治体による審査と証明書の交付
提出された書類は、自治体の担当部署によって内容が法令に適合しているか審査されます。
この審査過程では、書類上の確認だけでなく、担当者が実際に現地を訪れて状況を確認する「現地調査」が行われることもあります。
審査にかかる期間は自治体や申請内容によって異なりますが、おおむね1週間から2週間程度が目安です。
京都市の例では、本申請後に不備がなければ通常2週間前後で交付されると案内されています。
審査の結果、計画に問題がないと判断されれば、無事に「都市計画法の規定に適合する建築物等であることの証明書(60条証明)」が交付されます。
この証明書を受け取ることで、ようやく家を建てるための次の段階である「建築確認申請」へと進むことができるのです。
60条証明の申請に必要な書類と費用の詳細

60条証明の申請をスムーズに進めるためには、事前に自治体の担当窓口で必要書類のリストを確認することが最も重要です。
求められる書類は多岐にわたりますが、一つひとつ準備を進めれば、決して難しい手続きではありません。
ここでは、一般的に必要とされる書類と費用の内訳を詳しく解説していきます。
書類の準備は、ご自身の計画が証明の条件を満たしていることを客観的に示すための大切なプロセスです。
専門的な知識が必要な図面の作成もありますが、全体像を把握しておくことで、建築士など専門家との打ち合わせも円滑に進みます。
自治体の様式で作成する申請書
申請書は、60条証明を取得するための正式な申込用紙です。
この書類は自治体ごとに様式が定められており、通常は役所のウェブサイトからWordやPDF形式でダウンロードできます。
例えば、兵庫県加古川市では、「開発許可等不要証明申請書」という名称で提供されています。
一般的に、申請者情報、土地の所在地、建築物の概要などを記入する必要があり、自治体によっては正本・副本・写しの合計3部の提出を求められることもあります。
まずはご自身の土地がある市区町村のウェブサイトを確認し、正しい様式を入手することから始めましょう。
土地と建物の状況を示す各種図面
各種図面は、土地の現在の状況と、これからどのような建物をどこに建てるのかを視覚的に説明するための書類です。
専門的な内容が多く、通常は設計を依頼する建築士や測量士が作成します。
提出を求められる図面は多岐にわたりますが、京都市や大津市の例を見ると、主に以下のような書類が必要となります。
これらの図面によって、計画が都市計画法や関連法令に適合しているかを役所の担当者が判断します。
| 図面の種類 | 主な内容 |
|---|---|
| 位置図 | 建築予定地がどこにあるかを示す地図 |
| 配置図 | 敷地内での建物の正確な配置、隣地との距離などを示す図面 |
| 求積図 | 敷地面積の計算根拠を示す図面 |
| 平面図 | 建物の各階の間取りを示す図面 |
| 立面図 | 建物を東西南北の4方向から見た外観図 |
| 断面図 | 建物を垂直に切断して構造や高さを示す図面 |
| 現況図 | 現在の土地の状況(高低差、既存物など)を示す図面 |
正確な図面を揃えることが、スムーズな審査につながる重要なポイントです。
法務局で取得する公図や登記事項証明書
公図や登記事項証明書は、その土地の法的な情報を示す公的な書類であり、法務局で取得する必要があります。
これらの書類は、申請する土地の所有者や地番、形状、権利関係を証明するために不可欠です。
登記事項証明書には、土地の所在、地番、面積、所有者の氏名・住所などが記載されています。
公図は、土地の区画や隣接地との位置関係を示した図面です。
どちらの書類も、申請日から3ヶ月以内に発行された原本の提出を求められることが一般的です。
法務局の窓口のほか、オンラインや郵送での請求も可能なので、早めに準備しておくと手続きが円滑に進みます。
自治体ごとに異なる申請手数料の目安
60条証明の申請には、審査のための手数料が必要です。
この手数料の金額は、自治体によって大幅に異なります。
多くの自治体では、1件あたり数千円程度に設定されていますが、安い市では数百円の場合もあります。
例えば、横浜市、一宮市では1件あたり300円(2024年時点)ですが、前橋市では1件あたり4000円です。
| 自治体名 | 手数料(60条証明のみ) |
|---|---|
| 福岡県福岡市 | 470円 |
| 神奈川県横浜市 | 300円 |
| 大阪府東大阪市 | 4,800円 |
この手数料は、申請書を窓口に提出する際に現金で支払うのが一般的です。
申請前には、必ず管轄の自治体のウェブサイトや担当窓口で正確な金額を確認し、準備しておきましょう。
自治体によっては手数料が万単位になる場合もあるため、事前確認が不可欠です。
盛土規制法に関わる88条証明の同時申請
計画内容によっては、「宅地造成及び特定盛土等規制法」という法律に基づく88条証明の同時申請が必要になる場合があります。
これは、大規模な造成工事が不要であることを証明するための書類です。
具体的には、建築予定地の面積が500平方メートルを超える場合など、一定の条件に該当すると88条証明の対象となる可能性があります。
その場合、60条証明と88条証明を兼ねた様式の申請書を使って同時に手続きを進めるのが一般的です。
例えば、兵庫県加古川市では、両方を同時に申請する場合の手数料は9,200円となります。
ご自身の計画が該当するかどうかは判断が難しい部分もあるため、最初の事前相談の段階で必ず役所の担当者に確認することが大切です。
よくある質問(FAQ)

- 60条証明の申請手続きは自分でもできますか?
-
申請自体はご自身でも可能ですが、専門家への依頼をおすすめします。
申請には、配置図や立面図といった専門的な知識が必要な図面の提出が求められます。
そのため、設計を担当する建築士や、行政手続きの専門家である行政書士に相談しながら進めるのが一般的です。
最初の事前相談はご自身で自治体の窓口へ行き、計画の概要を伝えることから始めると良いでしょう。
- 費用は申請手数料の他に何がかかりますか?
-
はい、申請手数料以外にも費用が発生します。
主なものとして、法務局で取得する公図や登記事項証明書などの書類取得費用があります。
加えて、専門的な図面の作成や申請手続きの代行を建築士や行政書士に依頼した場合は、その報酬が必要です。
費用の総額は計画の内容や依頼先によって変わるため、事前に見積もりを取ることを推奨します。
- 既存の家があればどんな建物にでも建替えできますか?
-
いいえ、どんな建物でも建て替えられるわけではありません。
市街化調整区域での建替えは、既存権利として認められる範囲に制限があります。
例えば、以前の建物と用途が同じであることや、延べ床面積が従前の1.5倍以内であることなど、自治体ごとに定められた規模の範囲内で行う必要があります。
詳しい基準は必ず自治体の担当窓口での事前相談で確認してください。
- 60条証明が交付されたら、すぐに工事を始められますか?
-
60条証明が交付されただけでは、まだ工事を始めることはできません。
この証明書は、次のステップである建築確認申請を行うための「通行手形」です。
60条証明書を添付して建築確認申請を行い、その審査に通って「確認済証」が交付されて初めて、建物の建築工事に着手できるようになります。
- 申請してから証明書が交付されるまでの期間はどのくらいですか?
-
申請書を自治体の窓口に提出してから証明書が交付されるまでの審査期間は、一般的に1週間から2週間程度が目安です。
ただし、これはあくまで審査にかかる期間です。
申請に必要な書類、特に各種図面の準備にはさらに時間が必要となるため、全体のスケジュールには余裕を持っておくことが大切です。
- もし60条証明が取得できなかったら、もう家は建てられないのでしょうか?
-
すぐに諦める必要はありません。
まずは、なぜ証明が下りなかったのか、その理由を自治体の開発指導課などの担当窓口で詳しく確認することが重要です。
理由によっては、建物の規模や配置など計画の一部を修正することで、再度申請して証明を受けられる可能性があります。
また、要件を満たせば開発許可を申請するという別の手続きに進む道もあります。
まとめ

この記事では、市街化調整区域で建築を進めるための鍵となる「60条証明」について、その役割から具体的な手続きの流れまでを解説しました。
この証明書は、あなたの建築計画が都市計画法に適合していることを公的に認めてもらうための、非常に重要な書類です。
- 市街化調整区域で建築確認申請へ進むための通行手形
- 農家住宅や既存宅地の建替えなどが主な対象
- 手続き成功の鍵は自治体窓口での事前相談
- 申請には配置図などの専門的な書類の準備が必要
市街化調整区域の土地で建築計画がある方は、まずご自身の状況が証明の対象になるかを確認し、自治体の担当窓口へ事前相談に行くことから始めてみましょう。


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